号外! 緊急試合前インタビュー 決戦前夜☆ 明日を決める試合

テービングをしながら、徐々に練習への緊張感を高める。春先の陽射しが穏やかだ

  数年の間われわれと共に時を過ごしてきた天笠尚(31歳)が、重大局面の試合をむかえることとなった。相手は〝無冠の古豪〟と称されるベテラン臼井欽士郎選手(37歳/横浜光ジム)。戦績を残したのち2011年に引退して故郷・宮崎に戻り、その後2014年夏に復帰。復帰後現在まで6連勝。命懸けのファイトスタイルが、ボクシングファンの心をわしづかみにしている、ガチンコ勝負が売りのベテランだ。


あれからもう2年が経つのか…。一昨年の世界選挑戦以降、タイやフィリピンの選手を相手に、着実に勝利を重ねている天笠尚だが、しかし世界再挑戦への壁は厚く、世界の有名プロモーター達は、今なお天笠を観察している状態だ。ボクサーが現役を続けられる期間は短い。年齢的にも許される時間的リミットが刻々と迫っている。

ボクシングは過酷な興業だ。アマチュアとちがい、勝利を重ねるだけでは世界の頂点に立つことはできない。
真に力のある強豪と死に物狂いでグローブを激突させ、死力を尽くし、唸りを上げるパンチを撃ちこみ、血飛沫のをあげ、強暴なまでの殴り合いで観客の度肝を抜く――そうした試合が、今の天笠には必要なのだ。勝つために用意された、予定調和の甘いファイトを繰り広げる外国人ボクサー相手に、ぬるい勝利を積み上げても挑戦権は手に入らない。

「このところ、自分と共に世界トップレベルを闘ってきた日本のライバル選手たちが、次々と引退したり、その言葉を口にしてます。『負けたら引退…』あるいは、自分がその言葉を口にすることも簡単です。でもしません。なぜなら、僕はこれまでも真剣勝負の中で闘ってる。そんな言葉は必要ないです」

「次の試合が重大な試合なのは当然わかってます。でも僕は、今日もいつもと同じように淡々と練習しています。気負いは人に見せない。言葉にもしない。ビッグマウスや挑発的な行動もとりません。それが僕というボクサーのスタイルです」

3分。3分。の区切りの中で淡々とサンドバッグを撃つ天笠。ときに禅僧を思わせる表情を見せる
動作確認を淡々と繰り返す
内田洋二チーフトレーナーと。気負いのない練習は、トレーナーとの信頼関係が大切だ

「たしかにファイトマネー目当てで貧困国からやって来る“出稼ぎボクサー”というのはいるんです。本当は強くて世界ランクにも入っているのに、ふさわしく負けることで、世界前哨戦などの試合によく呼ばれるボクサー達」

「もちろん彼らを否定しません。彼ら本当に強いんです。ただ僕らとは、プロボクサーという仕事の考え方が違うんです。
今度の試合で対戦する臼井選手は、本当に魂の強い、魂だけじゃなく拳も強い、死に物狂いの殴り合いを好む本当のボクシング選手です。プライドを賭けた、双方の危険を伴う打ち合いになるのはわかってるけど、僕は、この強い選手との戦いが、愉しみで仕方ないんです」

ボクサーの真価は、試合の順番で決まるんじゃない。

「後楽園ホールで、次の僕の試合は“セミセミファイナル”と言う扱いなんです。前座とは言わないけど、良い扱いとは言い難い。セミセミと扱いということで、『どうする、辞退するか?』という声もジム内にあったんですが、僕は自分で進んで受けました。
ボクサーの真価や価値は、試合の順番で決まるんじゃない。勝敗だけで決まるんでもない。そこで何を賭けて戦い、何を競い、何を見せることができるのか――。一つの集大成となる試合をやるつもりです」

セミファイナルには亀田和毅が登場する。メインは日本バンタム級タイトルマッチだ

『BLUE’S MAGAZINE』はWEBでも世界へ再挑戦する天笠を追い続ける!

Battle①
2017年――世界チャンピオンを見果てぬ夢で終わらせない!

『BLUE’S MAGAZINE』が創刊以来、応援しているボクサー、天笠尚。57.15 kg 以下というフェザー級で身長179㎝の長身、痩躯な身体から想像もつかない強打を放つことから、「痩身の暗殺者」の異名を持つ。本誌創刊前年、2014年12月にWBA、WBO統一世界スーパーバンタム級の絶対王者、ギレルモ・リゴンドウで世界初挑戦。11R回終了時TKOで一敗地にまみれたが、TKO圧倒的不利との前評判のなか、7回に2度ダウンを奪うなど、大健闘した——『BLUE’S MAGAZINE』はWEBでも世界へ再挑戦する天笠を追い続ける!


天笠尚の次の試合が決まった。3月10日、後楽園ホール「A-sign.Bee1」。対戦相手は日本フェザー級8位、OPBF東洋太平洋スーパーバンタム級2位の臼井欽士郎(横浜光ボクシングジム)だ。

「当初、外国人選手との試合の話があったんですが、日本人選手との対戦になってよかったと思っています。前回の試合、昨年10月のカルロ・デメリーショ(フィリピン)戦ではKOすることができなくて、『かませの選手を呼んできて、何で倒せないんだ』と言われましたからね。実力のある選手だったんですが、日本で知られていない選手と闘っても、そう思われてしまっても仕方ないところがある。実績のある日本人選手と試合をして、まだまだ力があることを見せつけたいですからね。今度の試合は56.8㎏契約なんですが(フェザー級は57.15 kg 以下)、臼井選手は減量に苦しむタイプで計量失格になっていることもあるそうです。もともとバンタム級、スーパーバンタム級で戦ってきた選手ですから、大丈夫だとは思いますけれど、お互いコンディションを整えて、熱い試合をしたいと願っています」

昨年10月20日、東洋太平洋スーパーバンタム級8位のカルロ・デメリーショとの試合。「試合には家族が会場にきてくれたので、絶対、KOで勝ちたかったのだけれど……」、結果は10Rまで持ち込まれ、3-0の判定勝ちだった(99-93、98-92、97-94)

対戦する臼井の戦績は30戦27勝11KO4敗。2011年9月に引退したが、2014年12月に復帰してから6連勝している。ただ、臼井は1980年1月生まれの37歳。プロボクサーのライセンスは37歳の誕生日で失効するが、2016年1月から日本ランキング入りしている選手は例外的に再交付することになっている。つまり、日本ランキングに入り続けなければ、プロボクサーでいられなくなるのだ。臼井にとって、天笠戦は絶対に負けられない闘いなのだ。

「ボクにとっても、それは同じです。次で負けたら、世界再挑戦がさらに遠くなりますからね。昨年のウォーリントン戦に負けて、ランキングから外れてしまったけれど、いまの目標はとにかく、一日でもはやく、世界ランカーに戻ることです。できるなら、今度の試合も世界ランカーと闘いたかったんですが、なかなか自分の望み通りにはならないこともあります。とにかく、次の展開が見えてくるような勝ち方をしたい」

天笠は現在、日本フェザー級2位。OPBFはランキングに入っていないが、天笠は2014年末のリゴンドウとの世界戦で返上するまで東洋太平洋フェザー級王者。現在のOPBF東洋太平洋フェザー級王者の竹中良(WBC8位)を、2014年10月の3度目の防衛戦で破っている。また、現役ボクサーのレーティングサイト「Boxrec.com」フェザー級で、日本3位、世界24位(日本1位はWBC12位、IBF8位の細野悟、日本2位は竹中良)。実力からすると、いまも世界ランカーでもおかしくないボクサーなのである。

「日本タイトル、OPBF東洋太平洋タイトルに、再挑戦することも視野に入れていますが……。日本チャンピオンの林翔太選手の次戦は、4月23日に1位の坂晃典選手との指名試合が決まっています。OPBF東洋太平洋フェザーの竹中良選手とは、前回、判定で負けていたのを12RTKOで勝ちましたから、完全決着として、拳を合わせたい気持ちはあります。でも、2月9日に荒谷龍人選手と4回目の防衛戦を戦ったばかり。タイミングとして、むずかしい」

日本のフェザー級は戦国時代に突入している。7月に天笠の後、日本フェザー級王者になっていた細野悟がタイトルを返上、10月にIBFフェザー級挑戦者決定戦をジョナサン・バロス(アルゼンチン)と闘い、判定負け。11月に大沢宏晋がアメリカ・ラスベガスでWBA世界スーパーバンタム級王者のオスカル・バルデスに挑んだが、7RTKO負け。9月に空位だった日本フェザー級王座決定戦で林翔太が上野則之に勝利、12月の初防衛戦でも下田昭文(元WBA世界スーパーバンタム級王者)に判定勝ちで王座を守った——そんななか、天笠も4月に世界挑戦を見据えて、イギリス・リーズでWBCインターナショナル・フェザー級王者のジョシュ・ウォーリントン(現在、WBC1位)に挑むも、判定で敗退。10月のカルロ・デメリーショに判定勝利したのだが、会心の勝利とは言えなかった。2試合しか闘えず、判定負けに、判定勝ちという試合結果。2016年は「ノックアウトしないと、本当に勝った気がしない」ことを信条としている天笠にとって、忸怩たる思いの年だった。

「それだけに、今年に賭ける思いは強い。世界戦をマッチングしてくれれば、明日にでも闘う準備はできています。フェザー級だけでなく、上下のスーパーバンタム級、スーパーフェザー級でも大丈夫です。世界クラスの肉体の当たりの強さをウォーリントン戦で実感して体幹強化を課題にして、その成果として普段のウエイトが1㎞増えました。テクニックもフィジカルも成長していると感じています」

昨年末、ボクシング環境も好転した。所属ジムの山上ボクシングは間借り状態だったのだが、東京・武蔵野市に名称を「FLARE山上ボクシングスポーツジム」と変えて、新たなスタートを切ったのだ。また、2月9日にはジムの後輩ボクサー、松山和樹選手が麻生興一(三迫ボクシングジム) と日本スーパーライト級タイトルマッチに挑んだ(8RTKOで惜敗)。

新宿区西早稲田の穴八幡宮にお詣りする天笠一家。穴八幡宮は鎌倉幕府海幕の源頼朝、室町幕府海幕の足利尊氏などの祖先、源義家に由来、徳川将軍家祈願所だった。商売繁盛や出世、開運に利益があるとされ、冬至から節分まで「一陽来復御守」が配布されている

 

一方、天笠にとって、昨年は私生活でも特別な年だった。一昨年10月18日、30歳の誕生日に入籍した美紗恵夫人が5月に長男、和(やまと)君を出産。ただ、その直前、ウォーリントン戦で惜敗、世界再挑戦が遠のいてしまっていた。引退も考えていたそうだが、そんな天笠の背を押したのは美紗恵夫人だった。和君をあやしながら、美佐恵夫人は笑顔で言う。

「悩んでいるといっても、未練たらたらだったんです(笑)。結婚したから、子供ができたからといって、未練を残されて、自分の夢を追いかけるのを諦めてほしくなかった。当たって砕けろ、で世界を目指してほしかったんです。それなのに、ウォーリントン戦は……。リーチが長いという強みがあるのに、このところ、それを全然、生かしてない試合ばっかりやってますからね。もったいないと思います。あんな試合をしていたら、みんな離れていっちゃう。あなたが世界チャンピオンになって……私だって、和と一緒にリングに立ちたいんだから」

それに応えて、天笠は語る。

「ボクシング自体は誰のためでもなく、自分のためのものですけれどね。ですから、結婚したから嫁のため、子供ができたから子供のため、頑張るというものではなりません。ただ、それがひとつのモチベーションになっているのは間違いありません。世界チャンピオンになりたいという思いを新たにしているところもあります。ボクのわがままでボクシングを続けているんですから、いい意味でプレッシャーとして働くといいんですけれど……。そのぶん、昨年の2試合に関しては、よけい不甲斐なさを感じています。今年こそは!」

2017年の天笠尚に大いに期待したい。

取材・文/編集部
撮影/菊池茂夫

 

 

天笠尚 HISASHI AMAGASA

1985年10月18日、群馬県太田市生まれ。31歳。身長179㎝、リーチ181㎝。2004年12月にプロデビュー。2011年12月に第58代日本フェザー級王者となり、4度防衛。2013年12月に第44代OPBF東洋太平洋フェザー級王者となり、3度防衛。2014年、WBA・WBO世界スーパーバンタム級王者、ギレルモ・リゴンドウに挑戦、2度のダウンを奪うも11ラウンドTKOで惜しくも敗れる。現在、日本フェザー級―2位。愛称は「痩身(そうしん)の暗殺者」31勝20KO6敗2分